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統合失調症

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 およそ100人に1人の割合で発症する決して珍しくない脳機能の病気ですが、治療を受けると症状がコントロールでき日常生活に支障がほとんどない方もいらっしゃるため、それほど身近にこの病気の人が居るようには感じないと思います。ほとんどは10代から40代頃までに発症します。はじめは眠れない、ソワソワ、不安、気分が変わりやすいといった、病気なのか単なる不調なのか分からないような症状が出ます。しばらくすると以下のような、統合失調症に特徴的な症状が出現して診断がつくようになります。

 

症状

①陽性症状(周囲からみてもわかりやすい症状)

幻覚・・・現実には存在しない感覚を感じることです。5感(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)に関連した症状が出現します。統合失調症で最も多いのは聴覚の幻覚である幻聴です。現実の音や声と区別がつかないことが多いです。自分に関する悪口や噂話が聞こえることが多いです。しばしば、家族や友人など知っている人の声で聞こえるため、本当に悪口を言われたと思い込みトラブルになります。通行人や近所の人が自分の噂話や悪口を言っていると感じて外出ができなくなり引きこもりになる場合も多々あります。テレパシーや電磁波など、目に見えない何かに影響されていると感じることもあります。

妄想・・・現実には正しくない事柄を心から真実だと思い込み、周囲が訂正しようとしても訂正できない状態です。統合失調症では被害妄想や注察妄想が多くみられます。被害妄想とは、誰かが自分に嫌がらせをしている、スマホをハッキングされている、盗聴されている等、自分が何らかの被害にあっていると信じ込むことです。注察妄想は、窓からのぞかれている、パソコンのカメラを通じて見られている、監視されている等、自分に注目が集まっていると信じ込む症状です。本人には真実としか思えないため、周囲が理屈で訂正しようとしても訂正はできません。

思考障害・・・頭が混乱して考え方にまとまりが無くなることです。関係のない話をしだす、言葉の接続がおかしい、言葉が出てこない等、コミュニケーションに支障をきたすことが多いです。頭が悪くなってしまったと感じられることもあります。

②陰性症状(病気かどうか分かりにくい症状)

感情鈍麻・・・喜怒哀楽が乏しくなって、他人の感情に共感することが少なくなります。周囲からは、ぼーっとしているように見えたり、視線が合わないように感じられたりします。

思考の貧困・・・比喩表現や抽象的な表現など、高度な言い回しができなくなります。会話にならず、素っ気ないやり取りになることもあります。

意欲の欠如・・・周りの状況に関心がなくなってしまい、何かをしよう、という気持ちが乏しくなります。洋服が汚れていても気にせず着続けたり、お風呂に入らなくなったり、化粧をしなくなったりします。

自閉・・・自分の殻にこもってしまい引きこもった生活をします。特に何をするわけでもなく、部屋の中でぼんやりと過ごし、自分の世界に閉じこもります。他人とコミュニケーションをとらなくなるため、社会性が低下します。

③認知機能障害(高齢者の認知症と同じような症状)

記銘力障害・・・物忘れが出ます。片づけた場所が分からなくなったり、自分が何をしていたのか分からなくなったり、作業の手順が分からなくなったりします。

注意集中力の低下・・・周囲の音が気になって会話に集中できなくなる等、必要のない情報まで拾ってしまい、必要な情報を理解することができなくなります。テレビの物音が気になって話ができない、作業途中で気が散ってしまうなど。

判断力の低下・・・今までは簡単に決められていた物事の順序が決められなくなったり、先々のことを論理立てて計画したりすることが難しくなります。

 

経過

 前兆期、急性期、消耗期、回復期の4期に分けられます。

前兆期・・・眠れない、音に敏感になる、焦ったような気持ちになる、気分が変わりやすい等、なんだか調子が悪いけど、はっきり病気とまでは言えなさそうな症状が出現します。この時期に統合失調症の診断がなされることは稀です。

急性期・・・症状の項目で述べたような症状が出ます。周囲から調子の悪さを心配されるようになりますが、本人は病気という自覚は持てずに、自分は正常で周りがおかしい、と訴えることが多いです。この時期に病院受診する、もしくはさせられる方が多いです。

消耗期・・・薬の治療を受けて症状が改善してくる時期です。幻覚や妄想が活発な急性期は、気が付かない間に精神的な疲れが溜まった状態になります。そのため、症状が落ち着くと、脳から休憩しなさいという信号が出て眠気やだるさ、意欲がないといったうつ病のような症状が出ます。病気が回復する途中の自然な経過なのですが、お薬の効果が出る時期と一致することが多いため、副作用ではないか?と心配になる人が多いです。

回復期・・・精神的な疲れが回復して、本来の調子が戻ってくる時期です。気持ちにゆとりが出てきて、周囲への関心を取り戻したり、楽しむことができるようになったりします。

 

原因

原因はまだはっきりしていませんが、脳内の情報を伝える神経伝達物質のバランスが崩れることが関係していると考えられています。ドパミン仮説やグルタミン酸仮説など、複数の原因が推測されています。発症には遺伝とストレスが関与していると考えられています。研究によって数字の差はあるものの、遺伝的には全く同一人物である一卵性双生児の間での診断一致率が約50%と、一般人口の有病率である1%をはるかに上回るため遺伝的な発症しやすさというのは確かにあるようです。一致率が100%では無い点からは遺伝以外の要因があることが分かります。遺伝的に病気になりやすい素質がある子が、思春期頃から社会的なストレスをたくさん受けることで発症するのではないかと考えられています。

 

治療

 残念ながら統合失調症はまだ完治させることができない病気です。精神科医の立場で病気を治せないと言うことは悲しいことですが、事実です。このような話をすると、患者さんを落胆させてしまうのですが、この事実を認識しておかないと治療が上手くいかなくなります。統合失調症の症状を抑えるお薬は沢山開発されており、お薬を正しく使用して治療を受ければ、症状をコントロールして社会生活を送ることができる人は多くいます。これを寛解と言います。しかし、どんなに調子が良くてもお薬を止めてしまうと、1年程度で半数以上が再発します。世界各国の治療ガイドラインでも、症状改善後の服薬継続は一貫して推奨されています。治らない病気という言い方をしてしまうと夢も希望も無いように感じてしまいますが、実は完治しない病気は珍しくありません。糖尿病や高血圧症、関節リウマチなど、完治させることが難しく、上手に付き合っていかなければならない病気というのは精神科以外でも沢山あります。統合失調症は早く治療をしてお薬を続けることで症状なく生活できる方はたくさんいます。治療が遅れれば遅れるほど、症状のコントロールは難しくなるので、少しでも疑わしい場合は精神科を受診することをお勧めします。

 

当院は持効性注射剤(LAI)をお勧めします

 治療の項目で述べたように、統合失調症の治療は正しく薬を使用し続けることが大変重要になります。ある研究では、全くお薬の飲み忘れがなかった患者群と、1度でも飲み忘れがあった患者群とを比較すると、入院率に何倍もの差があったそうです。それほどにお薬を毎日飲むことが大切なのですが、全く忘れずに内服するというのは本当に難しいことです。私もたまにお薬を飲みますが、うっかりして昼のお薬を飲んでいなかった、飲む時間がずいぶんずれてしまった、という経験が多々あります。持効性注射剤(LAI)は注射タイプのお薬です。種類によりますが、1度注射をすると2~12週間効果が持続します。内服治療で症状が安定した方のみ使用できます。定期通院時に診療所で注射を打てば次の診察までは内服の必要がありませんので、飲み忘れの心配は全くなくなります。家族などから、薬を飲んでいないのではないか、と心配されることもなくなります。海外に比べて日本での普及率は低いですが、積極的に使用した方がよいと治療ガイドラインでも推奨されています。注射は痛そう、と心配される方も多いです。正直、筋肉注射なので普通の採血よりは痛いです(笑)ですが、想像されるよりは痛くないと思います。

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